愛と音の花束を

「今日は以上。お疲れ様でした!」

団長の締めの挨拶の声で、みんなが一斉に席を立つ。

私の隣の椎名もさっと立った。

そして、私に向かって深々と頭を下げたのだ。

「今日はすみませんでした。出直してきます」

本人には、さっきのこと、謝らなくては……。
何て言おう。

「……あなたがあそこで謝る必要はありませんでした。どうしてあんなことをみんなの前で言ったんですか」

あー。嫌味な言い方になってしまった。
素直にごめんなさい、ありがとうって言えない。

「えっと、どうしてって言われても……」

彼はポリポリと頬をかいている。

「崩れてるの見たことない永野さんがあんなになるなんて、オレが下手すぎるせいなのかなって……」

被害妄想の上に自己犠牲って。

「……あなた、マゾ?」

「あー、そのケはあるね」

「…………」

「楽器やる人なんて、多少はそのケがあるものじゃない? 何百回もさらって、つらいけど楽しいとか、オレってマゾだな〜って思うよ」

思わず吹き出してしまった。

この人、本当に楽器弾くのが好きなんだ。

「ごめんなさい」

すっと言えた。

「よく練習しているのは伝わってきました。暗譜してるの?」

気になっていたことをきくと、彼は少し恥ずかしそうにした。

「あー、まあ……。わかった?」

「キョロキョロしてたから」

「最前列は各トップのお姿がよく見えて、面白くて、勉強になるなぁって、つい見ちゃったんだよね」

……驚いた。
何、この余裕。このメンタルの強さ。

「この調子なら、本番までには結構いいところに行けると思う」

私がそう伝えると、彼は嬉しそうに笑った。


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