愛と音の花束を


「よかったです」

壁際で楽器を片付けていると、隣で同じように片付けていたコンマスが言った。

「あの時、顔が真っ青でしたけど、今は柔らかい表情をされてるので、安心しました」

……そうなのか。
そう言えば自分の口角が上がっている気がする。
気持ちも沈んでいない。

「演奏止めてしまってすみませんでした」

「いえ。あれは崩れた周りがいけない。周りがいかに永野さんに頼っているかがわかったでしょう?」

コンマスは意味ありげにニコっとした。

……気づかないフリをしておこう。

彼は気にせずに続ける。

「それにしても椎名さんのフォローは見事でした。あの瞬発力は素晴らしいですね」

……それは認めざるを得ない。

「椎名さんが曲を弾いてる姿はほぼ初めて見たのですが、興味深いです。一度ゆっくり話してみたいと思っていたので、今日食事に誘ってみます」

別に宣言しなくても。
どうぞご自由に。





ひとり公民館の外に出て、空を見上げる。

晴れていて、月はないので、星がよく見える。

素直に綺麗だと思える精神状態でいることに、ほっとして。

記憶の蓋を、少し、開ける。

私がセカンドパートリーダーになるのを後押ししてくれたあの人だったら、コンミスを打診されていることに対して何て言うだろう。

あの時と同じように、やるべきだ、と言うだろうか。




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