愛と音の花束を
彼が席に戻ると同時にコーヒーが運ばれてきた。

「俺、この間で32歳になったんだ」

椎名がコーヒーを一口すすり、そう切り出した。

「……おめでとうございます。それで?」

結花ちゃんと同い年!とか言うのかと思えば。

「結花ちゃんは、いつからヴァイオリン始めたの?」

「……その質問は相談と関係あるんですか」

「あるの。誕生日プレゼントだと思って教えてよ」

ああ、やっぱり悩んでるのか、と思った。
安いプレゼントだけど、素直に教えることにした。

「……小1です」

「きっかけは?」

「……今のような学童保育が整備されていなかったので、近所の教会がボランティアで放課後に商店街の子どもを預かってくれていたんです。そこの牧師さまに教えていただきました」

「へぇぇ。それはいつまで?」

「小6まで、平日は毎日」

普通のヴァイオリン教室だと高い月謝払って週一回のところ、タダで毎日教えてもらえていたのだ。
ちなみに楽器も教会のもの。
何と低コスト。
ただ、それなりのレベルまでしか習っていない。
それが私のコンプレックス。
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