愛と音の花束を

「中学では楽器は一旦やめました」

「ふんふん。で、高校生の時に今のオケに入ったんだ? これまた何で?」

「中3の時、市民オケの皆さんがいらして、体育館で演奏会をしてくれたんです。それでオケでヴァイオリンが弾きたくなって、親に無理を言ってフルサイズの楽器を買ってもらったんです。市民オケは高校生以上でないと入れなかったので、中学を卒業してすぐ、春休みに市民オケに入りました。」

「で、今に至る、と。……26年かぁ」

「間に3年空白があります」

「それでも23年……」

楽器を何歳から始めたかというのは、悩んでも仕方ないことだと思う。
過ぎた年月は取り返せない。

……ただ、それは私が言うことではない。

「大人の方が頭を使って弾くので、効率的に練習できるでしょう? 上達も早いですよ」

精一杯気を遣った返答をすると同時に、料理がやってきた。

お互い、しばし無言で食べ進める。

椎名は、さすがに一口が大きい。
ガタイがいいだけあって、いい食べっぷりだ。

ただ、もっと喋りまくるタイプだと思ってたけど、何やら難しい顔をして、モグモグしている。

……何となく、気まずい。

いい大人だ。話くらいつながないと。
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