愛と音の花束を
「うーん、みんなつい三神君ばかりに目が行っちゃうけど、結花ちゃんの職人ぶりもすごいと思うんだよね。どんな難しいパッセージでも複雑なリズムでも最初の合奏から弾けてるって安定感はすごく頼りがいがあるし。しかも、こう、アンテナ立ててさ、いろんな楽器の情報キャッチしてるでしょ。後ろに控えるところと前に出るところの弾きどころがわかってるし。それがちゃんと後ろにも分かるように弾いてくれるし」

褒められるのは、苦手。
慣れていないし、本当にそんな大した人間じゃないということは自分自身がよく知っているから。

「……私はただ、今までのトップがそうしてきたことを真似してるだけです」

「真似できるのは結花ちゃんにそれだけの能力があるからでしょ」

もう。何なのこいつ。
こうして正面から褒められるとどうしたらよいか分からず、つい口走ってしまった。

「私なんか、本当は大したことないんです。ただ長く弾いてるだけで」

「それが俺にはすごくうらやましい」

あっ、しまった。
胃がキュッとした。
この人の前で一番言ってはいけないことを言ってしまった。

口の中が渇き、カフェオレを口に含んだけれど、味がしなかった。

椎名だから、と、つい、軽い気持ちで言葉を発してはいなかったか。それは彼を下に見てるという自惚れではないのか。最低。
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