愛と音の花束を
おそるおそる彼を見ると、真面目な表情でこちらを見ている。

静かに、心の中を見透かすような視線。

私の普段の虚勢も、自信のなさも、下を見て安心するような卑しさも、全て見通されている気がした。

「…………すみません」

怖くて目を合わせていられず、マグカップに視線を落とす。

「謙遜しすぎは嫌味にきこえるよ?」

静かな声が、私の心に刺さる。

「もっと自信持ってよ」

……そんなこと言われたって。

「反論があるならどうぞ?」

「……自信の持ち方なんて、わからない」

小さな声でつぶやく。

「誰かと比べてる?」

……浮かんだのは、あの人だった。

彼のように。
彼だったらどうするだろう。
それが、ここ数年の私の思考の拠り所だった。
でも、彼のようにはなれない。分かっているのに落ち込む。厄介なスパイラルだ。

「比べるなら過去の自分にしなよ」

はっとした。

……この男は、つい忘れがちだけれど、高学歴のお医者様なんだった。

「いっそ比べるのやめると、人生楽だけどね」

そして、いろんなことを乗り越えてきた30代なのだ。
それを感じさせるような、優しい声だった。
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