愛と音の花束を

駐車場で、椎名は私に向かって頭を下げた。

「今年は本当にお世話になりました。いい年になりました。来年もよろしくお願いします」

そう言い、右手を差し出してきた。

「今年最後だから、握手してお別れしよ?」

どうやって断っていいかが分からなかったので、私は戸惑いながら、手を出した。

あったかくて大きな手が、意外なほど優しく、私の手を包む。

久々の感覚に、ドキっとした。

同時に、あぁ、やっぱりこの人苦手だ、と感じる。

どうしたらいいかわからなくなること、たくさんされる。
チャラいかと思えば真面目だし。
人を真正面から褒めまくるし。
しかも気遣いを見せたり、馴れ馴れしかったり、妙に鋭かったり。

……多面的過ぎるのだ。
私には捉えどころがないくらい、スケールが大きい奴なのだと思う。

この手みたいに。



握手を終えた私たちはそれぞれお互い車に乗り込む。

椎名はデカい身体だからデカい車に乗ってるのかと思いきや、赤いミニクーパー。

窮屈じゃないんだろうか。
どうでもいいけど。

私が発車しようとすると、椎名が車の中から私に手を振った。

ほら、こういうところ。
私にどうしろと。
手を振り返すなんて真似はできず、軽く会釈をして車を動かした。

嫌いなわけではないけれど、苦手。

むしろこの方が感情の処理が厄介だ。

相性の悪さにため息をついた。




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