愛と音の花束を
2.涼しい顔

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「コンマスなんて、テキトーでいいのよ」

あっけらかんと言い放ったのは、前コンサートマスター、白石環奈〈かんな〉。

環奈は私よりひとつ年下。
天真爛漫な女王様タイプのコンミスだった。

市内の会社でバリバリ働き、社内恋愛の末、結婚。出産。現在1歳の娘さんのママ。職場復帰したものの、オケへの復帰はまだまだという状況。

私とは全然性格が違うけれど、いや、だからなのか、妙にウマが合って、定期的に連絡をとっている。


今日はお正月休み。ランチを食べに、小さなレストランに来ていた。
シェフ1人、バイトの子1人の隠れ家的レストラン。
ふわとろオムライスが絶品。

「私、高校・大学と学校でオケやってたんだけど、学生オケって毎年コンマス代わるじゃない? 色んなタイプ見てきたけど、なんだかんだで結局なるようになるなぁって感じ。コンマスがめっちゃ上手い人じゃない方が、周りが頑張って逆に全体としてまとまっていい演奏ができたりして。
だから、結花ならできる。私が保証する」

「……うん……」
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