愛と音の花束を

2人並んで墓地の隅のベンチに座ると、コンマスが口を開いた。

「花束を作るのって、オーケストラで音楽を作るのと似ていると思いませんか」

……やられた、と思った。

「主役を決めて、脇役を配置して、色や形や位置のバランスをとる。素材は一緒でも、作る人によって出来上がりは違ってくる。
コンマスの役目は、さっき永野さんがおっしゃったように、整えるだけでいいと思います」

……ああ、もう、この人にはかなわない。

「それから、ここだけの話なんですけど」

何だろうか。

「僕がソリストをやろうと思った理由をお伝えしておきますね」

それはききたい。
今まで頑なに断り続けてきたのに、急に心変わりした理由は気になっていた。

「僕……」

彼が言い澱むのは珍しい。



–––––––「好きなひとが、いるんです」



…………。

…………ええと、どう答えればいいんだ。
おめでとうございます?
それはよかったですね?
お付き合いしているんですか?
オケ内ですか? 会社の人ですか?

考えた末。
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