愛と音の花束を
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今日のオケの練習は、本番指揮者の初振り。
これから先の約3ヶ月間、本番に向けてどんな関係を築いていくのか、いわば手合わせになる。
練習開始前の大部屋は、いつもと違う緊張感に包まれていた。
早く席に着き、必死でさらっている人、多数。
今回招くプロ指揮者は、早瀬マリ。
新進気鋭の若手女性指揮者。
女性で指揮者。最近徐々に増えてきたとはいえ、まだまだ数少ない。
私は初めてだ。
強烈な性格だったらどうしよう。
しかも高校まではヴァイオリンを弾いていたという。弦の事情に詳しいわけで、誤魔化しはきかない。レイターが多いセカンドをネチっこくイジメる人でないことを祈りたい。
あぁ、胃が痛い。
そんなことを考えながらセカンドトップの席で指慣らしをしていると。
「アイテっ!」
この場にそぐわない間抜けな叫び声がきこえた。
見ると。
……壁際の椎名が、調弦の姿勢のまま、固まっている。
「大丈夫ですか⁉︎」
「どうしたの⁉︎」
彼は、周りの声に対して、呆然としながら「E線切れて顔に当たった……」と答えた。
E線は4本のうち一番細い線。
よって一番切れやすい。
私は楽器を席に置いて、彼の元へ向かう。