愛と音の花束を
前を向き直ると、後ろから「すみませんでした」と声がした。

早瀬先生はうなづき、姿勢を正し、

「はい、それでは、サン=サーンス、頭から」

と言って、タクトを構えた。

その気迫といったら!

こんなにワクワクするのは久しぶり!



彼女の指揮はとてもわかりやすい、というのが第一印象。
腕の動きが技術的に安定しているというのもあるけど、身体からリズムや曲想が溢れている。目の前なので、ブレスの音もよく聞こえる。
まさに、全身で音楽を奏でている感じ。

あぁ、でもオケの方が緊張しているせいか、いつもより硬いし、重いな。うまく流れていかない。

そう思っていたとき、早瀬先生が曲を止めた。

「はい、一旦楽器おろしていいです。ではここで問題。サン=サーンスはどこの国の人でしょうか。オーボエの彼女?」

「あ、はい。フランスです」

「正解。ではフランスのイメージは? そうね……」

早瀬先生はみんなを見回す。

「コンバス3プル裏の彼」

みんな一斉にそちらを見る。
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