愛と音の花束を
「えっと……、ボンジュール、メルシー、ジュテーム?」

早瀬先生は笑ってうなづき、みんなの間にもクスクス笑いが起こる。

「なるほど。言語の響きは曲の響きとも密接なつながりがありますね。では、他に……」

早瀬先生はランダムに指名していく。

「エスプリ?」
「シャルル・デュトワ、パスカル・ヴェロ」
「印象主義」
「……フ、フランス料理……」
「パリ!」
「オシャレな、洗練された、華やかな」

彼女はそれぞれの回答にうなづき、

「なるほど。ありがとうございました。ではそんな感じでもう一度いってみましょう」

そうして奏でられた曲は、みんな程よくリラックスし、それぞれフランス的イメージを持ったおかげで、重かった流れが軽やかになって、びっくりした。

上手いなあ、と思った。


曲が進むにつれて、彼女が割り切りのよい性格であることがわかってきた。
まだ技術的に弾けてない人が多い、とわかった箇所は、イメージと修正要望だけ伝えて、細かく突っ込むことはしない。さっさと次に進む。
一方、この場で修正可能な箇所は、指揮者の要求を伝えて、トライさせ、うまくいかない時は解決策を提示するか、または、一緒に考えてくれる。
こちらがアマチュアであることで下に見ることなく、真摯に、全力で、思い描くイメージにどう近づけていくかを考えているのが伝わってきて、好感を抱いた。


練習が終わる頃には、もう次の練習が楽しみになっていた。

この指揮者、当たりだ。

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