愛と音の花束を

練習が終わり、楽器を片付けていると、

「さっきはありがとうございました」

椎名が来た。

「ん?」

何のこと?

「チューニング、助けてくれて」

「ああ、別にあれくらい」

「かっこよかった」

……また、こいつは。
でもここでつべこべ言うと、またお説教されるんだろうな。
諦めて、楽器を見つめながら、言った。

「……ありがと」

……恥ずかしい……。
慌てて誤魔化そうと、話題を変える。

「それより、あなたラッキーだよ、初めてのプロ指揮者が早瀬先生で。すごく勉強になると思う」

「やっぱりそんなにすごい人?」

椎名に向かって、大きくうなづいた。

「すごい」

「そっか」

あれ?
一瞬、切なそうな笑顔に見えたのは気のせいか?
チューニングを指摘されたことを気にしているんだろうか。

「結花ちゃんがそんな風に笑ってテンション高くなるんだから、本当にすごいんだろうね」

彼はニコニコして言った。
いつも通りの椎名だ。

気にして損した。






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