愛と音の花束を
ちょうど、ステージにオーボエの本多さんが出てきた。40歳ちょっとの男性。
ピアノは、いつも下振りをしてくれる(本番指揮者の前に、練習で指揮をしてくれる)、コントラバスパートの羽生さん。40代男性。

本多さんは、まあ、確かにモサッとしてるかもしれないけど、穏やかで真面目なタイプと言ってほしい。
それに、1人で舞台に立つ自信があるんだから、当然、オーボエが上手い。

曲は、サン=サーンスのオーボエソナタ第1楽章。
オーボエとピアノだけで奏でられる。

曲が始まった。
長調の三拍子。穏やかで優しい曲調。
室内楽もいいなぁ、と思わせてくれる。

定演でやるサン=サーンスの交響曲でファーストの彼は、あえてこの選曲にしたんだろう。

真面目な人だから。

……実は、彼とは昔付き合っていたことがある。

……私にとって初めての男性。

もう、高校生の時だから、大昔の話。
優しくて、穏やかで、いい人だった。
それは今もそう。

彼は職場の人と結婚し、お子さんもいる。きっと優しいパパなんだろう。

割り当てられた時間を目一杯使って、彼らのリハーサルは終わった。
本番もうまくいきますように。

「ほわ〜、相変わらずうまいなぁ。モサッとしてるけど、吹かせると上手って得だよね」

隣で環奈が失礼なことをつぶやいた。

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