愛と音の花束を


「きたきた。本日の目玉」

環奈が姿勢を正した。

ステージ上には、コンマス、ヴァイオリンの望月さん、ヴィオラの小川さん、チェロの真木君の4人が入ってきた。
弦楽四重奏、いわゆるカルテット。

「ってか、あれがチェロに入ったイケメンっ⁉︎ きいてたよりレベル高い!」

環奈は私の腕をペシペシ叩き、ひそひそ声を張り上げて興奮している。

どんな情報網なんだか。

と、椎名がステージ端の階段から降りて客席に走ってきた。

「椎名君、ここ空いてるよー」

環奈が手を振って小声で呼ぶ。
というのも、音響がいい真ん中付近の席は、ギャラリーで結構埋まっているのだ。
でも、“ここ”って、私の隣だけど?

「客席で聴かせてくださいってお願いして抜けてきちゃった。お邪魔します」

椎名は私の隣の席に座った。
大柄だから、私の腕のすぐそばに、彼の腕がくる。

……なぜかドキっとした。

……ほら、男性とこんなに近づくのは久しぶりだから。
女性としては致し方ない反応であるに違いないわけで。
私にもまだ女の部分があるということだ、うん。

ぐだくだ分析していると、演奏が始まった。
慌ててステージに集中する。

チャイコフスキー弦楽四重奏曲第1番第4楽章。

……全体的に、硬いな。
聴いているこちらにも緊張が伝わってくる。
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