愛と音の花束を

リハーサルが終わり、いよいよ開場。
お客様をお出迎え。

団員でも今回演奏しない人や、出番が後半の人で、プログラムをお渡ししたり、客席にご案内したりといった受付スタッフをやる。

私は、椎名と一緒に贈り物受付係。

ホワイエ奥に設けたカウンターで、お客様ご自身でシールに宛先とご自分の名前を記入していただき、それを贈り物に貼り、パートごとに分けておく。

この係は、団員の交友関係が分かって面白い。
友達というのが圧倒的に多いけど、中には、ご両親やお子さん。
あるいは、恋人かな?と思われる人、とか。

「こんにちは」
かわいらしい声がしたと思ったら、オーボエの本多さんの奥さんと、小学生の娘さん。

「こんにちは」

「これ、お願いします」
小ぶりのブーケが差し出される。
奥様は慣れているので、こちらが説明する前に、シールに宛先を記入してくださる。

こうして、穏やかな気持ちで彼女達を見られるようになるまで、どれくらいかかっただろう。

社内恋愛は別れた後が面倒ときくけれど、それはオーケストラも一緒。
転勤や異動がない分、ずっと顔を合わせ続けなくてはならないから、きついものがある。
オケ内恋愛がこじれたことが原因で退団する人さえいる。

何人かオケ内で付き合ったけれど、もうオケ内恋愛はしたくないな、と思う。
若い頃は“好き”というだけで浮き足立って、しかも、相手も自分を好きだなんてわかると舞い上がって付き合っていたけれど、この年になると、先がどうなるのか考えてしまう。
もし別れるという結果になった時、居場所を失いたくない。私にとって、このオケがない生活は考えられない。
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