愛と音の花束を
そんなことを考えながら彼女達を見送ったところで、お客様は途切れた。

すると。

「スーツ姿の結花ちゃんも新鮮。かっこいい」

隣に立つ椎名が話しかけてきた。

椎名はテキパキ働いてくれるのはいいけれど、お客様が来ないと、なんだかんだ話しかけてくる。

スタッフが暇そうに談笑している姿というのは、お客様からすればあまり好ましくない姿だと思うので、私は前を向いたまま対応する。
チラリと隣の椎名を見ると、彼も前を向いたまま。
こういうところは節度がある。

「ハイハイどうもありがとう」

もう、椎名の“誉め殺し口撃”を受け流すことを覚えた。

なお、スタッフはスーツを着用しなくてはならないため、今日の私は、黒いパンツスーツに水色のシャツという格好。
椎名は黒いスーツに水色のシャツ、青系の斜めストライプのネクタイ。

お互いこういう格好で会うのは初めてだ。

「椎名さんも、よくお似合いですよ」

最近は、誉められたら誉め返すなんて技も出してみる。

「あはっ、ありがと」

いつも通り、彼は嬉しそうに笑う。
楽しそう。

「色が似ててペアルックみたいだね」

この発言は無視。

「お花はいいね。和むね」

「そうね」

いろんな花束やアレンジメントを見ると勉強になる。

「結花ちゃんは、こういうコンサートには出ないの?」

「土日に練習参加できないから」

「そっかぁ。一度結花ちゃんの演奏聴いてみたいなぁ」

「シェヘラザードで6ソリやってます」

今度の定演曲のシェヘラザード、セカンドヴァイオリン6人で3つの和音、つまりは1つの音を2人ずつで弾く箇所がたくさんある。
言わずもがな、目立つ。

「曲を聴きたいんだけど」

ちょうど花束を持ったお客様が来場されたので、この発言も無視。
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