愛と音の花束を
ただ、あんなに完璧に見える旦那様でも、きっと早瀬先生には弱さや欠点を見せることもあるんだろう。いや、彼女にしか見せないという表現の方が正しいか。コンマスと同じタイプだ。


「ごめん、大丈夫だった?」

椎名が奥から戻ってきた。

この人は恋人の前でもあまり変わらないタイプだろうな、と思った。普段から誰にでも弱さをさらしている。

「大丈夫。これ、早瀬先生が旦那様といらして、みんなにって」

私がシールに、『早瀬先生より』と書いて紙袋に貼っておいた。

「じゃあ、団宛の荷物のところに置いておくね」

お付き合いのあるアマオケや団体から、団宛にいただくものもある。

いやそれよりも。

「早瀬先生が結婚してたこと、驚かないの?」

「えっと……」

椎名の目が泳ぐ。

「まさか、知ってた?」

「えっと、その……彼女くらいの年だったら、別に結婚しててもおかしくないかな、って……いや別に結花ちゃんがどうこうじゃなくて!」

「そういう気遣いは結構です」

「……ハイ」

椎名は紙袋を持って、すごすごと奥に下がっていった。

ほら、こういうところ。
コンマスだったら顔色を変えずにうまいこと言って切り抜けるに違いない。
想像して、あまりの違いに思わず顔がゆるんでしまった。


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