愛と音の花束を

そして、開演五分前。
来場するお客様はほとんどいなくなった。
受付チーフの環奈と目を合わせ、うなづき合う。

「ここはもう大丈夫だから、ステージスタッフに回って」

椎名に声をかける。

「あ、じゃあ、奥、見てもらっていい?」

そう言われて衝立の奥の贈り物置き場を見て、びっくりした。

キレイに整理整頓されていて、わかりやすく貼り紙もしてあるのだ。
さっきはこれをやってくれてたのか。

……几帳面。

「よく働いてくれて助かった。ありがとう。ステージスタッフ頑張って」

そう言うと、椎名はニコッと笑い、「うん、頑張ってくる」と言って、裏手に入れるドアへと向かった。

他の受付スタッフも、自分の出番がある人は控え室へ、出番がない人は客席に向かっていく。

たくさんの後ろ姿の中でも、椎名は目立つ。
大きいから。


「いいじゃな〜い?」

歌うようにそんなことを言いながら、環奈が近づいてきた。

急に人がいなくなり、シン、とするホワイエ。

残っているのは、環奈と私。

「何が」

「椎名君」

ホワイエの壁には、ホール内の模様が中継される大きなディスプレイが設置されている。

2人で入り口が見えるように並び、横目でディスプレイを見る。

画面の向こうのステージには、グランドピアノだけが静かに佇んでいる。
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