愛と音の花束を
「……で?」

私が言うと、環奈は優しい声で、

「いい感じじゃない?」

と言った。

「いい人ではあるんじゃない?」

「さっききいたら、彼女いないってさ」

胸が、変な音を立てた気がするけれど、聞こえなかったフリをする。

「…………ふぅん」


ふぅん。
あ、そう。
だから?


その時ちょうど、花束を持って駆け込んでくる女性が目に入ったので、私達は彼女に駆け寄った。

環奈がプログラムをお渡しし、私が花束をお預かりし、環奈が客席ドアまでご案内。
ここらへんは阿吽の呼吸。

そうして、2人で元のテレビの前に戻る。

画面には、ちょうどトップバッターであるオーボエの本多さんがステージに出てきた。

彼の音は、今でも私の中で特別だ。
数年間、オケの中で耳を澄まして探してきた音だから。
そうして、うまく行きますように、と祈る癖は未だに抜けない。

30を過ぎた今、そんな感情を抱く相手が増えれば、間違いなく疲弊する。

だから。

「オケ内恋愛はしない」

私がきっぱり言うと、環奈は、むぅ、と口を尖らせた。


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