愛と音の花束を

そうして、何組かの後。

コンマスのカルテットの番。
これはもう、環奈と並んでディスプレイに向き合い、鑑賞する態勢。

入場してきた時から、4人の表情が柔らかくて、あ、いい感じかも、と思う。

その通り、リハーサルの硬さはなくなって、伸び伸びとした演奏。
こちらに不安感を与えることなく、音楽がスムーズに流れていく。

ああ、よかった。

少人数ならではの息の合い方と、たまに覗く遊び心。
それぞれの個性が輝き、それぞれを引き立て合う。
これぞカルテットの醍醐味、というのを感じさせてくれる。

……全く、コンマスはリハーサルから本番までの短い間にどんなマジックを使ったんだか。

その彼は、高音のメロディを気持ちよさそうに歌い上げていく。

その姿は、率直に言って、非常にかっこよくて、若かったら惚れると思う。

コンマスには好意を持っている。
でも、恋ではない。

うん、そうなのだ。

人として好き、と、恋をすることは違う。


椎名はいい奴だけど、恋愛対象にはしない。




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