かたかご
おかくれ
「申し上げます。帝がおかくれになりました」
釆女(うねめ)、《今で言えば、お手伝いの女性の事》が御名部皇女(みなべのひめみこ)と
妹の阿部皇女(あへのひめみこ)のいる部屋の外で残念なような口調で声をあらげるようにいった。
二人の父、天智天皇の他界の知らせに二人は黙り見つめ合った。
長い間床に、ふせていた状態が続いていたが、最近では見舞いにいっても、会うことも許されぬ日々がつづいていたのでかなり悪いのは、わかっていたが、いざとなると驚きに近い感情で言葉がみっからない二人であった。
御名部皇女と阿部皇女は母を同じの一つ違いの仲の良い姉妹であった。
「わかりました。喪の支度を頼みます。」
沈黙を破ったのは、御名部皇女の一言であった。御名部皇女が言葉を発するまでそんなにかかってはないが、何時も立っていたような雰囲気がある妹の阿部皇女は、御名部皇女の言葉に我にかえった様子であったが御名部皇女は、かまわずに阿部皇女の手をとり立ち上がった。
「阿部、支度をととのえている間に母様の所に様子を見に行きましょう。」
「あっ、はい。」
阿部皇女は短い返事をすると、姉の御名部皇女に引っ張られるように、部屋を後にした。
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