かたかご
「母様」
御名部皇女が声をかけると、二人の母である蘇我姪娘(そがのめいのいらつめ)は黙って入口に立つ二人の娘を黙って見つめた。
母の顔は寂しいそうでありながら、諦めをただよわせている。
「お力を落とさないで」阿部皇女はそう言いながら、母の側に近付き手を握った。
すると母は、首を横に振り
「大丈夫‥ただ皇子を授からず事が悔いて‥しかたないのにね‥」
静かにつぶやき目線を下に落とした。阿部皇女の後ろで、御名部皇女は母の言葉を複雑な思いで受け止めた。
母の姪娘が、天智天皇へ嫁いだ頃は皇太子、葛城皇子(かつらぎのみこ)であった。
皇太子であるということは、後に天皇となることは約束されている。
しかし、後継ぎになる皇子は幼くして亡くなり、他は身分の低い、地方豪族の娘や釆女から妻になった者から産まれた皇子のみ。
姪娘が皇子を産めばまちがいなく後継ぎになる皇子である。
実家の蘇我家や葛城皇子も期待の中、二度みごもるが、残念ながら二人とも皇女であった。
「あなたたちを責めているわけではないのよ」
母の言葉に御名部皇女は、何をいいたいのかわかっていた。
「わかっています。」
御名部皇女はうなずいた。
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