かたかご
輿をおりると、御名部皇女は、十市皇女に会いにきた訳を頭の中で考えていた。
「おねがい、もう困らせないで。」
その時、庭から声が聞こえてきた。
御名部皇女は、庭をのぞき見するように眺めた。
そこには、十市皇女と高市皇子が何かをいい争っていた。
「十市…」
「あなたが、たずねてくるだけで、あらぬウワサがたつの。」
「わかっている。しかし心配なんだ。」

「高市…私もツライの。時をまって。」
「わかった…。」
高市皇子は、十市皇女の言葉に理解をしめし、庭をあとにした。
「あっ」
何があろうと、我はついて行きます。
そう…あの日から決めた…あやつから逃げ出し、あなたと共にいることを誓った日から御名部皇女は、我にかえると立ち聞きしていた自分をとりつくろうとした
(えーっと…えーっと)
御名部皇女は胸に悲しい苦しさを感じていた。
ここへ自分は何をもとめてきたのか?
十市に何を言うか?

今見たものは、ふれていいものではない…

そのくらいわかるはず
なのに…

ほほに一筋、涙がおちた。
「わたし…」
御名部皇女はしゃがみこみ泣き出した。
言葉にはできない気持ちに気づいてしまったから…
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