カナリア
出会い編

プロローグ

 ……。
 ……。


「……もしかして、名前を忘れたの?思い出せる?」


《隼一》だっただろうか。


「……そう。あなたは《隼一》。」


「苗字を諸星(おせ)。諸星ユウキって言うの。お願い、忘れないで。」


--------


担任の親戚が倒れたらしい。


飼っていた鳥を担任が預かることになって、子供達にいい経験だからと、教室に持って来た。


「これはカナリアといって、歌が上手な鳥なのよ」


鳥なんて雀と鳩くらいしか知らなかった自分にとって、紅く燃えるような羽を持った【カナリア】はとても印象的だった。


思わず鳥の図鑑を借りたぐらいだ。


餌換えの当番の時にカナリアと目があった。真っ黒な瞳で、その表情は乏しい。


自分を気にも留めず、白い狭い籠の中でご機嫌に歌い出す。


餌を換える為に開けた扉を閉めもせず、ぼんやりとカナリアを見つめた。


「お前は翼があっていいね。自由の翼。」


「そんな事ないよ」


独り言は空中で消える前に、いつの間にか近くにいた女子生徒に拾われてしまった。


「一度人に慣れてしまった鳥って、野生に還したところで、すぐ死んじゃうんだって。

だから飛ぶ翼があっても自由じゃないのよ」


「私たちは、テレビもあるしゲームもあるし漫画もある。友達とも遊ぶけどこの子は、飼い主しかいない。」




「自由かな」


その後、俺は籠から飛び出したわけだが自由になったかというと、それは別だった、


カナリアはどうなったか、誰も覚えていない。
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