カナリア
文太君に連れられた講義室は、本当に広かった。

確かにこれなら、一人ぐらい紛れ込んでも分からないけど…けど…緊張する。


「おれがいるんだから堂々としてればいいよ。」


「私、文太君と違ってメンタルそんなに強くないので……」


「……。」


返事がない。何か、表情が……もしかして怒ってしまったのだろうか。


「ごめん。ちょっと面倒な奴がいたから、そこで待ってて。」


文太君はそう言い残し、階段を降りて、まっすぐ歩いていった。

その先には座っている青年と、ソレを取り囲む三人がいて、耳を澄ませばかろうじて会話が聞こえてくる。

文太君はその三人のリーダーらしき青年に話しかけた。


「どうしたの、森田クン。」


「うわ、文太じゃん。どうしたのって、中村が俺らの為にノートとってくれたから取りにきただけだし。」


「ふーん……。……。フィールド研究の小テスト、だっけ。

おれ、完璧だからノート貸してあげよっか。ううん。貸してさしあげるよ、ハイ。」


「んだよ……調子乗ってんじゃねーぞ。」


「うるせーな。ノート貸すだけで、いちいち調子乗るかよ。いるの、いらねーの?」


文太君に言われて、森田という人の取り巻きは悪びれもせずノートを彼から受け取った。森田という人は舌打ちをし、その場から離れた。


彼らは、品のない笑い声を上げながら、隣を通り過ぎる。


文太君の学部は結構、有名なので彼らも勉強はできるのだろうが。それにしても、今の一連の流れは疑ってしまいたくなる。


まあ、自分の大学もああいう層は少なからずや居るといえば居るのでどこの大学も一緒なのだと思う。
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