カナリア
思った以上に私の方が緊張していたらしく、肩がガッチガチに固まっていた。ため息と共に肩の力を抜く。


特に何もなくてよかった。


森田君達が去ってから、文太君が絡まれていた青年、中村君に声をかけた。


「後でいいんだけどノート、コピーさせて。」


「ぶ、文太君……あの……」


「つーか。まさか本当にノートとるって約束したとか、ないよね?」


「ちが……本当……いきなり言われて……」


「だと思った。ま、交通事故にでも遭ったと思って自分を宥めなよ。」


「あ…あの……」



「カナー!あっち座ろ。」


いきなり呼ばれて、大げさにびくっと肩が上がってしまった。文太君は大分前の方を座りたがった。前の席はやっぱり、たくさん空いている。

途中、中村君と呼ばれた人の視線を若干感じながら、文太と並んで席に着いた。


「えっと、文太君。かっこよかったよ。」


「何が?」


「えっと、ああいう事できるのってかっこいいと思うな。」


「はあ?」


「とっさに誰かをああやって守れるなんてすごい事だと思う。」



「ふーん……。あんたにはそう見えたんだ。」


「?あ、ノート大丈夫?」


なんだろう。違和感。


「ノートは別に、どうでもいいんだよ。ノートなんかなくても完璧の自信あるし。

でも、ああ言わないと中村君が気を遣っちゃうでしょ。」


「えっ、大丈夫なの!?持ち込み可能のテストって結構、大変なんじゃないの……?」


「そだよ。でも、受講した後に復習すれば大抵忘れないでしょ。予習もできたら一番なんだけど、さすがに、そこまで時間とれないし。」


「えー……そ、そうなのかな……。
それって文太君がすごいんじゃないかな……」


「ほら、おれって真面目だし。暗記得意なんだよね。

なので、ノートに関しては全然困ってない。」


「うーん……文太君がそういうなら……。」


「あ、そうだ。じゃあさ、テストでいい点数とれたら、イイコトしてくれる?」


文太君の目が輝いた。
これは、私をからかう時の目だ。
イキイキしている。


「えっいいこと?」


「そっいいこと。」


「うーん……いいよ……?」


「アハハ」


戸惑いつつも話に乗ってみたのに、何故か笑われた。


なんというか…


もっととっつきにくい人なのかなって思っていたけれど、大分、印象が変わった。
 

まあ、最初は私が遅刻して怒らせてしまったから悪いんだけど。


また次もお昼一緒にできたらいいな。

文太君の空いてる曜日っていつだっただろうか。
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