カナリア
愛して3
ー 文太 side ー
急遽、休講になるとは思はなかったな……。
今日はカナもいないし、どうしようか。家に帰るか。そう心の中で呟いて歩き出す。
川を渡って大きな公園を抜けて、20分ほど歩いたビジネス街にあるマンションが我が家だった。
大きな公園は、イルミネーションや催し事など、色々やっているが、今の時期はバラだ。赤、黄色、白、ピンク、紫……とにかく綺麗だった。
橋の上からでも香ってくるのではないかと思える程、惜しげもなく咲き乱れている。
天気もいい。趣味ではないが、偶にはいいのではないかと、階段を降りる。
花の香りが一層つよくなって、思わず咳き込む。想像以上だ。そんなバラに釣られて公園はいつも以上の人で溢れかえっていた。
別段、花と関わる生活をしていないため、冗談みたいに大きく咲くバラに驚く。中には自分より背丈のあるヒマワリのようなバラもあった。
せっかくだしな、という事で、携帯を取り出して一枚だけ撮っておいた。人の方が沢山写った気がするがいいか。
思ったより、バラの香りに酔う。
早めに抜け出してしまおう。
バラ園を抜けて大きな広場に出る。子供たちが遊んでいて、小学校が終わった時間帯なのだろう。
「……あ。」
「!!!!」
カナの弟だ。何してるんだろう。
こんなところで、一人で自転車を持って突っ立っている。
「こんにちは。」
「こ……」
「学校帰り?」
「あ、違う?自転車できたんだ。」
「こ、こん……こんにちは……」
「こんにちは。名前覚えてる?」
「ぶ、ぶんた……さん……」
「隼だっけ?もしかしてバラ、見に来たの?へえー。お姉ちゃんは?」
「おねえちゃんは、こういうの、あんまり、きょうみなさそう……」
「あはは、ぽい。へー、隼ってバラ好きなんだ。珍しいって言われない?」
「……キモイって言われた。」
「まじで?」
「おんなみたいって。」
「へー。そうなの。綺麗じゃんね?
おれの同居人にも、花が好きなやついるよ。男なんだけどね。」
「ぶんた……さんは……?」
「おれは、興味ないけど、別にキモイとは思わないかな。
むしろ、綺麗な物をちゃんと綺麗って思える心は綺麗だなって思うよ。」
「?」
「かっこいい、って事。
だって、こんな綺麗な物を、女っぽいからってだけで理解しようとしないのは勿体無いと思わない?」
「えっと……」
「ごめん、バラ見に行くんだったよね。邪魔したな。」
「あ……えっと」
「……。チャリ、置く所ないもんな。おれが、持ってやるよ。ほら、好きにバラ見にいきなよ。」
そう言うと、隼はものすごく戸惑った。
まあ、結局おれが押しに押したので、
「あ、ありがとう……。
…………。わーいわーい。」
と言ってバラ園に走っていった。
なんだあのはしゃぎっぷり。本当にすげー好きなんだな……。