カナリア
「文太とはうまくいってる?彼、ちょっと取っ付きにくいんじゃないかなって心配してたけど。」


「あー……そうですね。ビックリする事は多いですけど、付き合っていく内に色々分かって面白いですね。

意外と面倒見良かったり。」


紅茶の美味しい喫茶店。
木場君のお気に入りの場所で、私たちは他の同居人との近況について話していた。


「そうだねー。表現方法が極端すぎて気づいてもらえない事が多いから損してると思うけど。優しいよね、文太は。

彼は特に、一人で頑張った。必死に必死に頑張った。生きる為に。

―――でも、そんな彼が、一人だけ。救えず、見捨ててしまった人がいる。だから、更に頑張っているのかも。」


「……?木場君……。」


見捨ててしまった人?いったい何があったんだろう。


全く話の意図がつかめなくて、切り出そうとした私を遮るように、木場君が席を立った。



「じゃあ、そろそろ行こうか、カナさん。今度は一緒に、舞台を観に行こうね。」

「あ、はい!ぜひぜひ!」


何事もなかったように、笑いかける木場君に、慌てて返事をした。
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