カナリア
帰り道、ぶらぶらと歩いていたら、楓とばったり遭った。


「カナ!……さっきのって……。お前。」


何、というと、いつもの楓の心配性が始まった。


「何って、俺は反対だからな。」


「何で楓に反対されなきゃいけないの。」


「お前は、物事を知らなさ過ぎる。」


「経験しなきゃ分からないよ。」


「俺はさ、お前が心配なんだよ。」


「……!あ、ご、ごめん。ちょっと、きつく言い過ぎた。」


「……。ごめん、俺も感じ悪かったな。

その、もっと、真面目な……やつとかなら……俺も……えっと……」


「文太君、真面目だよ。首席入学だし。」


「えっマジで。

じゃなくて誠実なやつ!ちゃんと段階踏んで付き合いできるヤツじゃないと俺は認めません!」


「こういう時だけ兄気取り~!」


「はー。そうだよなー。
大学も違うし、普通は、こうなるよなぁ。」

さっきまでの勢いは何処に行ったのか、楓がぼそぼそと呟く。


「お前はさ、お前が思っている以上にモテるから、もっと気を張っていけよ。

ただし、喋らなければ、の話だけどさ。」

「楓!!!」






「カナ……一緒に帰ろうよ。」

そう言って楓は歩き始めた。



「学校忙しい?」


「あーちょっとねー。色々あって。」


「色々?……文太サン?」

楓がつっかかってくるが、まあ、その通りだ。


一気に機嫌が悪くなったのを空気で感じたが、気にせず喋った。


何も気にしなくて良い。それが、私と楓の間柄だった。


家の近くに来る頃には楓も忘れていた。


「……。カナさ、今週末、夕方からなんだけど、舞台を観に行かない?」


チケットをもらったんだそうだ。最近、木場君の影響でよく観に行くため、正直舞台にはすごく興味がある。


私が是非!と勢いよくこたえると、楓が若干びっくりしている。


「……。あ、うん。

じゃあ、お前の大学の近くで待ってる。」


「ありがとう。じゃあ、またね。」

「おやすみ。」
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