カナリア

愛して6

(あれ、文太君。また連絡つかないな。)


もしかして、また告白タイムだろうか。呼び出しで告白とかすごいなー。メールとかだと思っていたけど。

あ、そうか。文太君、友達いないんだった。


というか、なんか、結構、慣れてる感じだったけど、もしかしてモテるのかな。頭いいもんね。まあ色んな意味でも目立つよね。



……用事の前に本を返しておきたかったんだけど、また来週にしようかな。待ち合わせの時間まで、もうちょっとだし。





「あ!あの!!」


バタバタと慌しい足音が近づいてきたと思ったら、以前見たことのある顔が。
中村、君、だっけ。


「あ、ぶ、文太君の、彼女さんですよね!?」


「か、彼女じゃないですけど!?」


「あああ、あのぶ、文太君が、あの、ももも森田クンとなんか不穏な空気でえっとあのぼ、ぼく……!」


「お、落ち着いて!」


中村君の慌て方は尋常じゃなくて、これは”彼女”の誤解をといてる場合じゃないのかも。


「森田君と文太君が言い争ってて……いつもより何かピリピリした空気で……あの、教授呼ぼうかと思って……」


えっ!待って、それはダメだ。大事になってしまう!


「私が行くから!どっち!」




前だったら、殴り合いのケンカになるのじゃないかと、ハラハラしていたが、文太君は文太君なりに、森田君を心配している。


口喧嘩はするだろうが、殴る蹴るの暴力沙汰にならないだろう。


ただ、私が感じていた通りに、森田君も同じなのだろう、と思う。


だってあれは、とても伝わり辛い。


森田君の虫の居所が悪くてぶつかったのではないだろうか、と予想していた。



「チクったのお前だろうが。お前しかいねーだろうが!!」


「だから、そんな面倒な事しねーって言ってんだろ。おれ、嫌な事は直接言うタイプだし。」


旧校舎裏まで走って行くと、文太君と森田君が喧嘩していた。


「じゃあ他に誰がいるんだよ!!」


落ち着けよと、文太君が宥めても、火に油状態だ。


「涼しい顔して!何、俺の事を見下して楽しんでるのかよ!!」


「被害妄想もいい加減にしろよ!

お前みたいな面倒なやつ、楽しむのが目的で構うかよ!」



「いっつもいい子ぶりやがって。

キモイんだよ!!!」


ガンっと大きな音が聞こえた。


胸倉を掴んでいた森田君が勢いあまって文太君を壁へと打ち付ける。その際に思いっきりぶつかった音だった。


苦痛に顔をゆがめた後、何かを耐えるような表情へと変わって……――



一瞬だった。



森田君の掴む手首をとったと思ったら、森田君の体が縦へ回転した。



ガターーン……



派手な音を立てた後は静かだった。


何が起きたのかわからず、呆然としてしまう。


乱れた胸元を、片手で直す文太君。



「次やったら投げ飛ばすだけじゃ済まないからな!

俺に、金輪際近づくな!」
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