カナリア
彼は、荷物を見つけるとその場から立ち去った。

「あ!ま、待って……!」



文太君が、ガタイのいい森田君をいとも簡単に、そして美しい円を描かせて投げ飛ばしたのだ。綺麗な一本背負いだった。


コンクリートにたたきつけられた森田君の心配もしたが、苦痛に耐える唸り声と彼の取り巻きが起き上がらせようとしていたのが視界に入ったので、とりあえずは、そっちに任せる。




「待って……!」


彼の腕を掴むと、思いっきり振りほどかれて、
バランスを崩して、よろける。


「あ……カナか。ごめん。」


「……。」


「……。」


「大丈夫?」


「俺は大丈夫。」


「腕、なんかおかしいけど。」


「あ。ほら、コンクリートだろ。頭ぶつけないようにとか、怪我しないようにとか、気を遣って投げたらバランス崩したんだよ。

ちょっと、肩はずれてるわコレ。」


「大丈夫!?」


ゴキン、と骨がぶつかる音がして、余りの生々しい音に思わずこっちが顔をゆがめてしまった。

肩はちゃんと入ったみたいで、何事もないか確認する為に、ぐるぐる回していたが。




「だ、大丈夫じゃないよね。」






―――岡目君。」



「頭は?結構、激しくぶつけたよね?」



「分かんの?」


「え?分かるって。

……あ、うん。だって、全然、表情も声も違うじゃない。」



「……。服で判断してるのかと思った。」



確かに、赤い上着はいつも文太君が着ているものだ。けど、私にはどこからどう見ても岡目君自身だ。


「ていうか、あれ、待って。口元、怪我してるけど、も、もしかして殴られた?」


「あー……もしかしたら、文太が、かもな。」


「手当て、した方がいい。コンビニ寄って、氷か何か。」


「あ、いい。家近いし。」


そうはいっても心配で、彼の手当てをするために、家にお邪魔することにした。
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