カナリア
家に帰る力もなくなった私はバラがほとんど枯れたN公園のベンチへ座って、ぼんやりしいていた。



“行ってちゃんと説明しなきゃ。終わるよ。”



文太君の言葉が

空っぽの脳内に反響する。


―――終わったんだ、と。


ただあの時、両方という選択肢は存在しなかった。仮に楓について行ったら文太君はどうなっていたのかと思うと、ぞっとした。


なんとも無かったとはいえ、ほぼ半日まるまる寝たきりだった。


良かったのだ、と言い聞かせるしかない。


しかし、文太君の拒絶の言葉が間違ってしまったのではないかと、思考を後悔の渦へ落としにかかる。



頭が重くなって自然に項垂れていた。


ふと、影が出来て、はっとする。

夕日を背に、《彼》が立っていた。

逆光でわからない。でも、この雰囲気からすると。


「カラス君?」


顔からすべてが抜け落ちたとでも言うのだろうか、無表情……それがカラス君の特徴だった。


余り顔の筋肉を使わず喋るので、他の同居人に比べて、声がくぐもって聞こえる。



「文太を、捨てる?」


え?捨てる?


「文太は、カナとの接触を拒んでる。」


「……はい……」


「深入りしたくないからだ。

失う、怖さを知っている。
報われなかった時の虚しさを、知っている。

もしかして、来るかも知れないその未来に怯えて、突き放したんだ。」



カラス君は、無表情で、淡々と、話し続ける。


「カナは、大事な兄より、文太を選んだんだ。

オレ達と友達だから?
オレ達がかわいそうだから?本当に?」


……?


「文太は……
――いや、オレ達は正直、重いよ。

アンタのそんな細い腕で抱えきれる?友達ってだけで、全てを受け入れられる?

文太にこれ以上、干渉するなら覚悟した方がいい。アンタに、その覚悟はあるの?」



それこそ、ここで断ってしまえば、
全部失うのだろう。

最初は気軽なものだったけれど、そう、私は彼らの助けに、少しでもなれればいいと思って、友達になった。

理解されづらく、生きるのが大変な病気だと、知っているからだ。



「もちろん。」


「アハハ。カナなら、そういうと、思った。
そうでなくちゃ、困る。」



完全に、夜空が夕日を押しつぶしていた。

学校帰りの、子供たちが沢山いたと思ったのだが。静かな川の音と、遠くで車が走る音だけが聞こえて、


広い公園に、2人取り残された。






「もしかして、文太、君?」
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