カナリア
無表情のカラス君とちがって、眉間に皺よせた感じがそう思わせたのだが、
単純に願望だったかのかもしれない。
「カナ……。くそっ……カラスか……カラスしかないよな……」
「久しぶり。」
「……。」
「どうして、関わらないで、なんて言ったの。」
「……そのまんまの意味だよ。」
「カラス君が、“深入りしたくないから”って言ってた。」
「……。そうだね。捨てられたくないから。傷つきたくない。
でも、おれは、捨てられたくないといいながら、見捨ててしまった。あいつも、森田も……!」
「―――森田、くん…?」
「……。
……少しずつ、打ち解けていたのに。」
(えっ、打ち解けてた?あ、アレで?!)
「親は放任、コネと疑われてグレて、生徒も教師も腫れ物を扱うようにしてたし、金にものを言わせて、手下をはべらして自由にしてる。
それでいいわけないだろ。
前期から頑張って少しずつ学校にきてくれるようになってたのに……。
くそ……っ、あの時、おれが……もっとうまく立ち回っていれば……。」
事故とはいえ、確かにあれは、森田君を見捨てた行動だっただろう。一本背負いして金輪際近づくな、と捨て台詞をはいて。
もちろん、それを言ったのは文太君では無かったが、森田君からしたら、そんな事は関係ないだろう。
中村君をかばう目的もあったのだろうが。
彼は彼なりに、森田君を必死に導こうとしていた事を知る。
「ねえ、カナ。本当に森田ってどうしようもないクズだと思うよ。本当に典型的な不良コース。むかついて、しんだ方が良いって思うときもあるけど。
でもさ、それでいいのかよ。
一人で勝手に更生するのを待てっていうの?違うだろ。親が、なんとかしないと。未成年だし。
でも、親に見捨てられたやつは、どうしたらいい?一人で?頑張るしかないのか?
そんなの、辛い。おれは、辛かったよ。
だから、少しでも助けになりたかったんだ。おれなりに、不器用ながら。でも、独りよがりで……!」
「文太、君……」
“捨てないで。”
そう、聞こえた。
あの文太君が、
とても小さく見える。
肩を震わせている。
彼の、トラウマになっているのだろうが。
そして、どうして私が見捨てるなんて、思ったのだろう。
勝手に捨てられると思い込んで恐怖して、勝手に突き放されて。
こっちもめちゃくちゃだ。それこそ失礼だな、と思う。
「ねえ、文太君。私って、文太君を捨てるような薄情な人間に見える?」
「知らない。
そんなの、知らない……!」
そうだ。私も、思ったのだ。
彼らの助けになりたいと。
それはひどく孤独で、つらい物だと知っているから。
「文太君!!!
よし、森田君に謝りにいこう。まだ、終わってないかもしれない。」
「……は?」
「諦めるなんて、文太君らしくないよ!」
「らしくないって、あんたは……おれにどんな印象、もってんの……。」
「私の中の文太君のイメージだけどね。
口は悪いけど、ちゃんと気配りできるし。
繊細で、自身たっぷりで、悪戯好きで、子供みたいで、アンバランスな人かな。」
「……。」
「一緒にいて、楽しいよ。
文太君の力になりたい。」
「……。あんた、それ、自分の言ってる意味理解してる?馬鹿じゃ、ないの……。」
文太君の、泣きそうな、それでも嬉しそうな笑みが答えだった。
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「……おれね。あの時、すごく怖かった。もう、会えないんだなって思ってしまって。」
「あの時?」
「おれを捨てて、楓さんのところへ……行ってしまったらどうしようって。
ああ、思った以上に、カナって……。」
「……。」
―――ごめんね、楓。楓を傷つけてしまった事は、癒せないんだろう。
けれど、文太君を選んだ限り、私は、私なりに精一杯、彼の力になりたい。
(何を、恐怖したのだろう。母親と、カナが同じな筈ないだろうに。)