カナリア
「……はあ?きっも。わざわざその為に、こんな所まできたのかよ。ストーカー!」


そういって、先輩、と呼ばれた人達をクラブハウスへと促す。


その間ずっと頭を下げている文太君に、

周りから野次が飛ぶ。


“声でけーんだよ、耳に響く。”

“モリタクーン、お友達が謝ってんだから相手してあげなよ。”

“えー何々、モリタって友達いたの、ギャハハ。”

“お友達は大事にしなきゃ~。”


クラブハウスへ、消えそうになる森田君の背中に叫ぶ。


「お前、昨日も今日も学校来てねーだろ!!

来週木曜日!小テストあるからな。
必要ならノートとりにこいよ!」


森田君は、文太君を一瞥して、
重低音が流れる扉ぼ先へと消えていった。


防音機能のある分厚い扉が閉まると、

先程まで溢れ出た重低音は
全く聞こえなくなって、

森田君と文太君の、心の距離の様に思えて、私は辛かった。


ただ、振り返った時の文太君の表情は何処と無く晴れやかだったのが、意外で。


意外で……隠れていたつもりだったが、
思った以上に柱の影から出ていたらしい。


「あ。」


「カナ……?何、おれの後、追ってきたの?」


「あ、はは……」


「そんなに頼りなく見える?」


「違うよ、勝手に心配しただけだよ。」


「そ、ありがと。」



「へー!なんか意外!そんなイメージなかった。」

そうだ、サトミの存在を忘れていた。


「誰、この人。」


「ちょっと!アタシよ、サトミ!!!誰のお陰でカナと知り合ったと思ってんの!!」


「……。

あ、あー……えっと……ごめん。あ、ありがとう。」

(カナの友達?カラスとは知り合い?)

文太君は焦って、小声で私に聞いてくる。
私も、サトミに聞こえないように耳打ちをする。

(私の学校の友達で、連れて行かれた飲み会で、初めてカラス君と出会ったの。)


「はー。お邪魔だから、アタシ消えるわ~~。
カラス君、カナをちゃんと送り届けてってよね。」


「えっサトミは?!」


そこの電車ですぐだから、大丈夫、だそうだ。


「あっ、カラス君!

アタシ、まだ松浦さん諦めてないから、お礼としてちゃんと手伝ってよね!」


「……松浦さん???」


じゃねー!と去り際に言い残して、サトミは颯爽と帰っていった。


「カナの友達って結構インパクトあんね。」


「文太君程じゃないと思うよ。

……。森田君……駄目だったね。」


「まだ、終わってないよ。

……。分かってもらうまで、通う。

うん、やっぱり諦めるのって、おれの性分じゃないし。

だから、慰められなくてごめんね。」


「別に残念がってないよ!」
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