カナリア
父方に引き取られて直ぐのこと、

家に帰るのが辛くて、《俺》は毎日学校に入り浸っていた。


毎日図書館で本を読み漁る。


母親と一緒に過ごしていた毎日は生きる事だけで必死だったので、はじめて触れる紙の世界に《俺》は結構没頭した。

その物語に入り込む時だけ現実を忘れられた。読むのはもっぱらファンタジー系だ。



そんな複雑な家庭の事情を知っている先生は少し優しい。

先生のススメで部活に入った。当時大変流行っていたサッカーだ。

運動神経は悪い方じゃなかったが、
団体競技は難しいと知った。


けれど、これも楽しかった。

もちろん、楽しい事だけではなかったが、
《俺》にはここしか居場所がなかった。


勉強すればする程、褒められた。

頑張れば頑張る程、自分が生きている意味を見つけられる気がして。



おれにとって、学校は特別。

おれの存在を認めてくれた場所だ。




進路がおれ達の未来を阻む。



“彼”が生きる事を諦めた日、

おれはためらいなく教職の道へと進むことを決めた。

またあそこに還るんだ、と。



“文太はすごいなー。”


“そりゃ、頑張ってるからね。”



ありがとう、と喜んでくれた事を

ポツリと思い出した。
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