カナリア
「結構くる?」


「……」


「だから、話さない方がいいんじゃない、
って言ったのに。」


「そうも、いかない……。」


涙が、とまらない。


「そうだね、そういう所好きだよ。

おれ達をちゃんと、
ひとりの人間として接してくれる。」


「……文太君。」


「……おれも。今日、皆とちゃんと話してみる。緊張すんね。コレ。」


「文太君でも緊張するんだ。」


「するでしょ。」


風が、冷たい。

気がつけば秋は一瞬だった。

もうすっかり冬だ。


「手。」


以前の私なら多分、からかわれると警戒していたと思うが。

何の抵抗もなく右手を重ねた。

じんわりと温かい。


「分からない事だらけだ。

もし、一つになったら、おれはおれで居られるのかな。

文太だろうか。セイだろうか、岡目だろうか、木場だろうか。


……。

おれがおれじゃなくなっても、友達で居てくれる?」


「もちろんだよ。

でも、私はもっと文太君と一緒にいたいな。」



人格、なんて曖昧な物がどれだけ確かなのだろう。

消えるかもしれない不安と、見据えなければならない未来の大きさに震えていた。


少しでも、側にいて支えてあげたい。

そう思える程、彼の存在は大きくなっていた。



ゆっくりと向きあうと、

文太君の繋いでいないほうの手が動いて、頬へ。

親指で優しく撫でたかと思うと、
ためらいがちに耳の端を触った。

瞬きしない程まっすぐ見つめ返す瞳が、珍しく伏せ目がちだ。

耳と髪を少し遊んだかと思うと、

ぎゅっと唇を結んで、

ゆっくりとその手を引いた。




「うーん……っと……
楽しみに、しとこうかな。」


「?」



「……ちゃんと、

還ってくるよ。」
< 53 / 64 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop