カナリア
「風邪!?大丈夫!?」


扉は開いていて部屋に上がり込むと、

ソファーでぐったりとしている文太君を見つけて急いで駆け寄る。


電話越しに会いたいと告げられた時は、

胸が高鳴ったがそれも一瞬で、

ひどく憔悴しきった声に、

ただ事ではないと授業もさぼって急いで駆けつけた。


「……。」


なんとなく、どういった状況なのか分かるが。


未来について、それぞれ話し合ったのだろう。


ちゃんと答えが出た結果だったのなら良いのだが……。


この具合だと、心配になる。


ぐったりしている文太君は、起き上がって、横につめて、私の肩に頭をあずけた。


「……文太君。」


甘えているのかと思ったが、
そうでもない、というのは顔を見たら分かる。


切羽詰まった表情で、

ぴったりくっついて離れない。


「暫く、そのままでいて。」


体温を分け与えてもらう様に、ぴったりと。


合わさったところから徐々に体温が移って、
境目がわからなくなる。


最初こそ緊張していたが、

なんだかその体温が気持ちよくなって

文太君の頭に自分の頭もおいてみた。


「手。」


「手!?」


仕方ないので差し出すと、握られて

どんどん体温を分け与えている図になる。


ふわっと、シャンプーだろうか柔軟剤のいい香
りがする。


自分の体臭は大丈夫だろうか気になってきた。



「おれは、お別れすら出来なかったよ。」


「お別れ……?」


「みんなが居なくなった。」


「……。」



「皆は、おれになったんだろうか、
それとも、切り離されたんだろうか。

おれは、ちゃんと文太?

カナから見て、文太で合ってる?」


多分、文太君だろうが。


声なんかは文太君そのものだが、

彼の言ってる通り中身なんてそんな曖昧な物、定義すらなかった。


ひどく不安定で、

こうして握っていなければ、

消えてしまうんだろうなと、確信があった。


手を握って、大丈夫だよと伝える以外に
何か方法はあるのだろうか。


私は私なりに、彼の力になりたい。


「確かめてみる?」


「……?」
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