カナリア
「わーー!!!ぶんたさん!ひさしぶりだー!!」


「ひさしぶり……。」


控えめに喜んで、かけよってく隼の姿はなかなか貴重だ。

最初からこうであったら、
もっと生き易いだろうに。


勢いあまって、足にぶつかった。

大丈夫かと心配したが、笑顔で見上げられて。


「ねえねえ、しゃしん!みてみて!
おれね、いっぱいとったんだよ~!」


「へー!凄いなー。

いっぱい撮ってんじゃん!これ何?」


「これはね!あねったいの!しょく物で!」


落とさないように、ネックレスの様に首からぶら下げられるスマホアクセサリーを買ってと言われたらしい。


隼は別段物を欲しがらないし、わがままを言わない。

端から見たら物分りの良い、子供にしては珍しい子だったから驚いた。


それからは、スマホ片手に色んな所につれてけと、せがむようになった。


遊園地、動物園、夏には海に行きたいというので、防水用のカメラが必要だねという話をしていた。


興味や好奇心に後を押されて、

歳相応の男の子へと成長させていた。



「どの写真が、お気に入り?」


そう聞くと、ささっとスマホをいじって、
自慢げに掲げてきた。


今の子は何のためらいもなく、スマホをいじれる様になるのだから凄いなーと感心してみたり。


「すげーぶれてんじゃん。何がお気に入りなの?」


多分、バラの写真なのだろうが。

接写しすぎて輪郭はぼやけてるしブレている。
でもスマホの壁紙に設定しているくらいには、
お気に入りだった。


「初めてとったしゃしんだから。」


引っ込み思案で、おどおどしていた。


自分の感情をどう表現していいか分からなくて迷っているのだろうと。


少し、そういった物に心当たりがあった為、
同じようにアドバイスしただけだ。

何か好きな物がきっかけになればいいと。


世界を広げる事が、
彼が生き易いキッカケになればいいと、
木場は言っていた。


おれは、あんまりそっちに詳しくなかったので、具体的な協力は出来なかったが、


おれは、おれなりに、

その環境を整える為に頑張ってきたつもりだ。


つもりだったが、今このざまだ。

裏切りにも似た、虚しさだった。



「……。ありがとう。」



だから還ってくる事を

期待したワケじゃなかった。


胸に広がった想いは、

今までやった事は決して無駄じゃないんだよ、

と教えてくれていた。
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