カナリア
前に来た時と風景が大分違う。


クリスマス準備をした遊園地は人が溢れかえっていた。クリスマス仕様のライトアップでも見ようか……なんて話はしたが、

もっと人の少ない所がいいと、お互い意見が一致した。


いや、別に、キライなわけじゃないのだが、もみくちゃにされながら見るものでもないなと。


そういうのをせがまない彼女で良かったよ、と文太君は笑っていた。今度せがんで困らせてみるのも面白いかも知れない。

なんて思いながら、

へらへら笑っていたのだろう。


いきなり手袋をむしり取られて、寒いと訴えれば、ニッコリ笑って左手を差し出してきた。


寒いので、仕方なく握っておいた。


相変わらず、文太君は体温が高い。カイロ要らずだ。


「何のろっか。」


そして今日はのんびりだった。


前は全部制覇しようという位、スピーディだった。それはそれで楽しかったのだが、


「メリーゴーランド、いってみる?」


「あはは、いいね。」


「馬車のやつとか2人掛けで乗れるじゃん。」


ゆったりした空気も楽しかった。





「お弁当!」


「うわー……」


「引いた?」


「引いた。」


「でも、カナに、じゃなくて嬉しかった自分に引いた。
俺、前に弁当嫌っていってたのに……。」


「あはは、変化だね!

ほら、文太君ってまだ食べられる量ってまちまちだし、残してしまったら勿体無いからね。

サンドイッチなら食べられるかなーって。
紙箱だし邪魔にならないし。手抜きっていったら手抜きかもね。」


「あ、生ハムはいってる!」






「ごちそうさま。手料理って、いいね。」


「?」


「こう……うれしい?」


「ほう。」


「カナにとっては当たり前なのかもしれないけど。俺にとっては当たり前じゃなかったから。

おいしい、ありがとう。

俺の為にありがとう。」


あ、やっぱり。

大分、大人びた笑みをする様になったなと。


私の感覚の問題なのだろうか?


ふっと笑った目元の優しさに気づいて、心臓が五月蝿い。


落ち着かせるために大きく呼吸した。


顔が赤くなっていた。


文太くんの事だ、

それもお見通しだっただろう。



「乗るでしょ、観覧車。」


「えっと。」


肩にぽんっと手を置かれて、
自分が思ったより緊張していた事に気づく。


「あ、なるほどなるほど。
カナは、俺と一緒に観覧車は乗りたくない?」


「う……乗りたくないわけじゃなくて……」


「ありがとう!よし行こう。」


ゴロゴロ転がされている。
常に文太君のペースだ。


別に嫌というわけじゃないが、落ち着かないだけだ。前の時とは大分違う。


観覧車を目の前にしても若干抵抗を見せる私に、文太君は、腰をすくうようにして車内へ連れ込んだ。

(その際に扉に頭をぶつけた。)


高いところは得意だというのは、もう知られているので、動悸息切れに苦笑いされた。


「そんなに嫌?俺と一緒なのが。」


「あ、違う。き、緊張してるだけで。」


「そっか。同じだね。」


「……文太君が?」


「そりゃあね。

……。

生きる為に、愛してもらうために、

必死だった。

結局、愛だなんてよく分からないまま。

見よう見まねで、色々やったけど、全然分からなかった。

ただ、上辺だけ、
愛してもらう方法を会得していっただけだ。

今は、おれ自身が人を愛することを知って、その尊さに震えるよ。


愛してる。大事にしなきゃ。
失くしてしまったらどうしよう。


俺って、臆病だったんだなって。


でも、ワクワクもしてる。これから、何が始まるんだろう。何を知っていくんだろう。

彼らが、くれた人生だ。

楽しまないと。」


文太君って強い人だなと、勝手に思っていただけで。


初めての事だらけに、震える手をとって、暖めあう。

耐えられない位に高鳴る心臓も、そうだ、楽しんでしまえばいい。








文太君と、何が始まるのだろう。


ああ、確かに、ワクワクした。




――文鳥 Fin――

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