水没少女

「“人魚姫”とは…また哀しい話を選びましたねぇ」

「えぇ?人魚姫は王子様と結婚してハッピーエンドなんだよぅ」



「違いますよ、人魚姫は王子様を殺す事が出来ず泡になったのですよ」



私は何だか無性に哀しくなってベッドのシーツを強く掴んで俯きました。先生は変な所で頑固だったりしますが、嘘をつくような人ではありません。きっと私が何かの物語と間違えてしまったのでしょう。可哀相な人魚姫。王子様を必死に想っているのに王子様から離れて消えてなくなってしまうなんて。



閉じた瞼の隅から溢れ出そうになる私の涙を先生がそっと拭ってこう言いました。







「まだ話に続きがありましてね、泡になった人魚姫は優しい神様の暖かな光に導かれて冷たい海から天へと昇ったんですよ」


きつく抱き付く私を先生は咎める事なく泣き疲れて眠るまで、ずっとそのままでいてくれました。





先生の為なら私は泡になって消えてしまってもかまいません。例え神様の暖かな光が当たらなくても、私は先生への想いを忘れる事なく暗くて冷たい青へと沈んでゆくでしょう。


深く、深く……。



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