桜の花びら、舞い降りた
心の誤作動
放課後、香織と訪れた俊さんのアトリエは、チャイムを押しても反応がなかった。
ところが、試しにドアに手を掛けてみると、すんなりと開いてしまった。
「こんにちは」
そこから顔だけを入れて中を窺うと、俊さんはカンバスに向かって一心に絵を描いていた。
チャイムの音も聞こえないほど集中しているようだ。
香織とふたりで上がり込んだところで、やっと私たちのほうを見た。
「――驚かすなよ」
俊さんは肩を大きく弾ませたあと、胸を撫で下ろした。
泥棒かなにかとでも思ったのか。
俊さんでも驚くことがあるのは、ちょっとした発見だ。
「ごめんね」
「こんにちは」
私のうしろから香織が顔を覗かせると、俊さんは「こんにちは」と挨拶を返した。
部屋の中に圭吾さんの姿はない。
「圭吾さんは?」
「ん? あぁ、ちょっと出てくるって言ってたな」