僕の好きになった人は
駅から歩いて五分のところにそのお店はあった。
昔からよく来ていたから、すぐに分かる。
扉を開けると、すでに少しほろ酔いで上機嫌な上司と、美味しそうにパスタを頬張る悟さんがいた。
「すみません、遅れちゃって。」
私がそう言いながら椅子に鞄をかけると、上司の松下さんは頬を緩ませながら、
「先に始めちゃったよ」
と 楽しそうな声で言った。
「なに頼む?」
ハンドルキーパーで お酒をいつもくちにしない悟さんは、いつものように 優しげに口角を上げながらメニューを私に渡した。
「あ、じゃあどうしようかな、、、マンゴー酒のソーダ割り呑もうかな」
普段はあまり呑まないお酒だが、その日は何故か少し気分が高揚していた。
ベルを鳴らすと、店員が素早く私たちのテーブルに駆け寄った。
「ご注文お伺い致します。」
えっと、と 顔を上げたときだった。
時間が止まる、とは まさにこのことだった、といま思い返しても思う。
彼の姿があまりにも美しかったから。
息をするのも忘れそうだった。
悟さんが、
「注文は?」と私に訊ねなければ、呼吸ができなかっただろう。
「すみません、、、マンゴー酒のソーダ割りひとつお願いします」
「かしこまりました。以上でよろしいですか?」
コクコク、と頭を頷かせると、彼はニコリと微笑んでテーブルを去った。
あんなに美しい男の子が系列店にいたなんて、知らなかった。
180をこえるであろう背丈、ゆるくかかったパーマに赤みの混じる栗色の髪の毛。
すっとした鼻筋、綺麗な形のアーモンドアイ。
透き通った瞳の色。
誰が見ても モデルではないかと目を疑うような容姿。
あんなに美しい男の子を、私は他に知らなかった。