きみのおと
耳が、聞こえないのかと思った。
だから、喋ることができないのかと。
でも1週間見ていて思ったのは、たぶん、そうじゃない。
授業はちゃんと受けているし。
不便そうな様子はない。
先生の指示には遅れることなく反応しているし。
声は、届いている。
それくらいわかるくらいには、私は彼の事が気になっていた。
その理由は、わからない。
「・・・はぁ」
考えてもわからないまま、ズルズルと視線だけを追っていくのは私の性に合わないし。
正直、モヤモヤして仕方ない。
だったら、いっそのこと。
意を決して立ち上がる。
私の前で小説を読んでいた亜衣が顔をあげたのがわかった。
とりあえず、それは気にしないことにして私は歩き出すと、彼の前に立った。