きみのおと


「そんなもんだろ。お前、髪切って雰囲気変ったし。そこそこ顔はいいだろ」

『芹川くんに言われてもあまり嬉しくない』




正直に思った事を書いて見せる。
芹川くんは嫌そうな顔をする。



「あほか。別に俺が思ってることじゃねぇよ。今まで根暗だと思ってたやつが、実はイケメンでしたなんて。女子の格好の餌食だな、お前」

『だから、嬉しくない』

「・・・お前、言い返すようになったな。言い返すっつか書き返す?って、それも変だな」



僕だって、芹川くんとこうやって話せるようになるなんて思ってなかった。




「つか、その筆談。ちょーめんどいんだけど。いい加減喋れよ。別に喋れないわけじゃないんだろ?」



そう言われて僕は俯く。
そんな僕を見て芹川くんは盛大に大きなため息を吐いた。


わかってるんだ。
書くのを待って、それを読むなんて面倒なことくらい。
それが、本当はしゃべることができる僕だから。



でも。
怖い。


こんなに毎日が楽しくなって。
顔をあげられるようになって。

今まで見ることのできなかった景色が。
感じることのなかった感動が。


楽しい日々が、ここにはあって。



それでも。
僕の背中を引っ張るものは。



どうにもその手を放してはくれなくて。





< 111 / 418 >

この作品をシェア

pagetop