きみのおと
僕は、芹川くんが少しでも面倒じゃないようにとあらかじめ手に握りしめていたノートに走り書きをする。
そしてバッと見せた。
『いつもは別のパン屋さんでお昼買ってるんだね』
芹川くんはそれを見て、頷いた。
「ああ。学校の近くに小さいパン屋があんだ。そこで買ってってる。逆にあそこは早くに開いて早く閉まるんだ」
芹川くんは本当にパンが好きなんだ。
いろんなパン屋さん、詳しいんだろうな。
いいな・・・。
僕も、いろんなところのいろんなパンを食べてみたい。
連れて行ってって言ったら、迷惑かな・・・。
「今度そっちも連れてってやるよ」
僕の気持ちを察してくれたのか、サラリとそう言った芹川くん。
僕は嬉しくて嬉しくて、なぜかこみあげてくる。
それをぐっと我慢して、何度も何度も頷いた。
「あんまさ、男でパン屋のパンが好きってやつ周りにいねぇんだよ。だから、お前は貴重なパン仲間だな」
パン仲間・・・。
嬉しい。