きみのおと


「余計なこと考えんな。お前が筆記でしかコミュニケーションとれねぇってわかったうえで俺はお前といるんだ。そんなの、俺だけじゃなくてあいつらだってそうだろ。面倒でも、お前といることを選んだってことじゃねぇの?」

「・・・」

「面倒とか、他人と他人のやり取りなんて、別に筆談じゃなくったって面倒なことなんてあんだろ。俺は思ったことははっきり言うし。面倒なことは面倒だっていうけど、だからってお前の筆談を無視したりしてないだろ?」




そうだ・・・。
なんだかんだ言いながら、いつだって芹川くんは僕の文字を読んで、それにちゃんと応えてくれてた。

それなのに、僕は自分の事ばっかりで。



『そうだね。ごめんね。僕、自分の事ばっかで・・・』

「・・・誰だってそうだろ。俺だって、筆談が面倒だっていうのは、ただ自分が楽したいからだし」




こんなにも。
こんなにも強く。


誰かに僕のことをわかってもらおうって、知ってもらいたいって思ったことなんてなかった。
いつだって、どうせ、とか、無意味だって決めつけて、そうして塞いできたんだ。



それが一番楽だった。




そう。
逃げたんだ。




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