きみのおと
久賀くんは、さっきから黙ったまま立ちすくんでいた。
確実に、言えないよね・・・。
意を決して私は芹川くんに近寄る。
「芹川くんの席は、多分もう一個前の席。久賀くんの前の席だよ」
「・・・チッ」
芹川くんは舌打ちをしてひとつ前の席に座った。
席は名前順でもなくランダムに決まっている。
「彼は久賀千秋くん。無口でおとなしい人だけど、優しい人だから」
「あ?千秋?女みたいな名前」
芹川くんはそういうと久賀くんを見る。
久賀くんはビクッと身体を震わせ、ギュッと鞄の紐を握りしめた。
「怖がらせないで。クラスメイトでしょ」
「うっせぇ女。別に、興味ねぇし」
そう言うと顔を反らし、肩ひじついて窓の外に視線を向けた。
口は悪いけど、手が出るわけじゃないみたいだし、あまり害はないんじゃないかな。
私はそう判断する。
「じゃあ、久賀くん。またあとでね」
そう言うと久賀くんは、少し不安げな空気を醸し出しながらも小さく頷いた。
久賀くんにとっても、かなり苦手なタイプの人かもしれない。
大丈夫かな・・・。