きみのおと
――どうして、この子が・・・
――ひどい・・・。どうしてこの子がこんな目に・・・っ
脳裏に浮かぶお母さんの涙。
ギュッと拳を握り、自分の部屋に向かった。
「すぐご飯だからね、降りてきなさいね」
お母さんの声を聴きながら階段を上がる。
『声が出せないわけではないようですが、おそらく心因性の問題で喋ることが嫌になってしまったんでしょう』
『心因的な問題なので、本人の心身的な状態が・・・』
僕が、全く喋らなくなって心配した両親が病院に連れて行った。
最初は、“心因性失声症”かと思われていたけど、一度だけ僕が喋ると僕の気持ちの問題だと言われた。
そんな事、わかってる。
だって、僕がそう選んだ。
話さないことを。
身を潜め、陰に隠れて生きていくことを。
お母さんは泣いたけど。
お父さんも戸惑い苛立っていたけれど。
それでも、僕にはその道しか選べなかった。