お嬢様と執事の不器用なちょっとした話
「貴女……」



赤の他人にどうしてそこまで必死に言えるのか、纏には分からなかった。



だけどお嬢様でも会社役員でも無く、錺禰纏だけを見てくれている気がした。



出会った頃の様な、何物にも染まっていない庵みたいに。



「…でも、2人で悩むってどうやって…?今更あの作り笑いを崩す方法なんて、私には思い付かないわ……」



我が儘を言っても、家出をしても、仮面みたく張り付いた偽物の笑顔を引き剥がす術を、纏は知らない。



「そ、それは……えーっとですね……」



捗拵もその実知らなかった。


庵の言葉の節々には、かなりの決意じみたものが感じられたからだ。



あれを崩すとなると骨が折れそうだが。



「貴女はお祖父様とどうしたの?お祖父様は一緒に悩んでくれたのよね?」


「はい…。祖父は私の話を聞いてくれて……あっ!!」



ユーレカ、我発見せり!

良い案を思い付いたとばかりな顔をした。



「お話しましょう!」


「はい?」



困惑する纏を置き去りに、捗拵は思い出したのだ。


優しく気概ある祖父の笑顔を見ながら話してる内に、いつの間にか悩みなどどうでもよくなってた事に。
< 11 / 19 >

この作品をシェア

pagetop